【常温核融合スキャンダル】理系学生は読んでおきたい、教訓だらけの科学史大事件

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南極観測船しらせ内にある「しらせ文庫」で見つけた分厚い本。

フィクションではなく、すべて実際にあった話だそう。知らなかった…

学生になったときに教わる理系の教訓がちりばめられた事件でした。

常温核融合スキャンダルあらすじ

1989年3月23日にフライシュマンとポンズが、この現象を発見したとマスコミに発表し「常温核融合」という用語が広く知られました。

超高温でしか起こらないはずの反応が簡単な装置中で起こったことで、世界中から注目が集まります。

エネルギー問題の根本的な解決や核兵器への転用可能性が報じられ、学術界や政界をも巻き込むブームとなりました。

しかし多くの疑念と実験の再現性が低かったため「20世紀最大の科学スキャンダル」とも称されました。

一連の流れを事実関係やインタビューなどからまとめた624ページからなる超大作です。

核融合スキャンダル感想

日本が過度に恐れられている

アメリカで発見された常温核融合は、国家間の戦いでもあったようです。

文中にしきりと「日本に研究結果が盗まれてしまう」という発言がありました。

かつての日本は半導体においてアメリカを抜き去った技術立国だったようです。

かつての日本の技術力に感心するとともに、そうなくなってしまった現在に寂しさを感じます。

対照実験は小学生でも基本

最初の発見者を勝ち取ったポンズたちは、軽水と重水の対照実験を行いませんでした。

他にも重水で熱上昇を発見して発表後、軽水でも同様の現象が見られたグループも。

現在の日本においては、アサガオの発芽実験で「対照実験」の存在を行います。

それほどまでに大切な対照実験、本文中に引用された言葉がとても印象的でした。

「雨ごいをずっと続けていればいつか必ず雨は降る」

科学者も奇跡を信じたい

この常温核融合スキャンダルは、ある意味「悪魔の照明」に近いものを感じました。

また民衆や政府の考えは科学者よりもさらに「パスカルの賭け」に近かったでしょう。

神は存在することにかけた場合、神がいないことを証明することは困難です。

さらに神がいないと証明されたとして、失うものは非常に少ない。

これは陰謀論やカルト宗教にもみられる考え方だと思いました。

一度でも自分が見たありえない現象を、正しいはずだと信じ続ける力。

これは善悪ではなく、志を持った人間はやらなければいけない姿勢なのかなとも感じました。

金と政治と対抗心

補助金と大学間の競争、さらには特許や地域格差などが絡み合ったこの事件。

本作でも前半は科学者同士とは思えないバチバチの特許戦争が行われています。

補助金が尽きかけていた研究室が常温核融合に飛びつくあたりは何とも…

「鋼の錬金術師」に登場するタッカー氏と重ねてしまう部分もありました。

役に立たない研究は予算を削られ、脚光を浴びた研究が光を浴びる。

すべてにおいて大衆迎合的な方向に進むのはやはり危険だと改めて思いました。

さらに物理屋に劣等感を抱く化学屋が理論を実践でぎゃふんといわせた構図だったのも。

最後の砦、査読と論文誌

世間が常温核融合に盛り上がるなか、冷静な科学者もいたようです。

ネイチャーや東京大学は終始否定的な立場を示したあたり、さすがと感じます。

一方でそこが認めてしまったら、おそらくそれは認知されずに常識になってしまうだろうな…

常温核融合は科学者のメンツをかけた戦いでもあったため、追試はすごかったよう。

自分の研究が否定されるような結果が出たら、必死になって追試する気持ちもわかる。

ただ常温核融合に好意的な科学者から前向きな追試結果が出るあたりが難しい…

ただ査読も今回のように情報が相手に流出したりするリスクもあるのだなと再考。

触媒と未知の法則への魅力

触媒というのはつくづく不思議なもの、まさに賢者の石と呼ぶにふさわしい。

今回の常温核融合も、パラジウムという触媒の代表格なのがなんとも。

パラジウムなら普通は起こらないことでもあるかも…と思わせてしまいます。

自分の記憶に強く残っているのはニュートリノが光速を超えたというニュース。

まだ知らない物理法則や、高次元を通ったのではと大きく報道されました。

追試によって間違いだと知ったときに、これまでにないほどのショックを受けました。

自分はそこで「科学にも間違いはある」「そううまい話はない」と悟りました。

そして常温核融合はいま

科学界のスキャンダルとなった常温核融合、ポンズたちはフランスへ。

ポンズはその後表舞台には一切現れずフライシュマンが発言を続けているそう。

途中の動揺や明らかに誇張した事実や表現など、ポンズは途中で気づいていたのでは?

Googleなどが大規模な検証プロジェクトを行い、やはり現象を再現されませんでした。

現在でも日本をはじめとして常温核融合の研究は行われているそうです。

しかし「常温核融合」という表現は意図的に避けているとのことで、研究費も苦しいそう。

トヨタ系シンクタンクなどが現在も実験を行っていますが、再現性や理論の説明に課題ありとのこと。

ここで興味深いのは「再現性のないことを科学とは呼べない」という科学の基本です。

再現実験でも説明のつかない現象はときおり起こったそうですが、再現はできず。

Dr.Stoneにおいては現代人ではないスイカが復活液を作ったシーンが印象的でした。

「実証性」とは観察・実験によって仮説を検討できる条件,「再現性」とは同一実験条件の下では同一の結果が得られる条件,「客観性」とは事実に基づき客観的に認められる条件である。

ウソかマコトか常温核融合

科学界に大きな教訓を残した「常温核融合」、しかし決着はついていないという人も。

アッと驚く研究結果が出てくる日がいつかやってくるかもしれません。それもまた科学。

一度否定された理論が日の目を見ることもあることは、「チ。」でも語られています。

一方で、自身の革新だけにこだわりすぎて周りが見えなくなることも大きな危険性です。

いつの日かこれまでの常識を覆すような研究が登場したときに冷静でいられるように、

先人たちが残してくれた「科学」という武器を使って、世の中をよりよくしていきたいです。

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