ハイエントロピー合金とは
ハイエントロピー合金は別名「高エントロピー合金」「High Entoropy Alloys (HEAs)」とも呼ばれます。
説明としては名前の通り「エントロピーの高い合金」ですが、基本となる考え方や定義から解説します。
エントロピー
大学生が挫折しがちな熱力学の指標で、定義は「ΔS=Q/T」ですが、正直ここではどうでもいいかも。
理系学生は部屋が散らかることを「エントロピーが増大する」と表現し、掃除しない言い訳に使います。
宇宙はエントロピーが増大するようにできており、
この辺はアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」でキュウベエが語っていました。
合金の種類
ハイエントロピー合金を形成するには、構成元素の原子半径が類似していることが重要です。張らは、原子半径の違いを表すパラメーター δ(平均格子不整合)を提案しました。δ = √(∑i=1N ci(1 – ri/r¯)2)ここで、riは元素iの原子半径、r¯ = ∑i=1N ciriは平均原子半径です。実験的には、δ ≤ 6.6%の場合に固溶体相が形成されることが分かっています。 ただし、4% < δ ≤ 6.6%の範囲で金属間化合物を形成する合金もあり、δ > 9%でも固溶体相が現れる合金もあります。ハイエントロピー合金の多元系格子は大きく歪んでいます。これは全ての元素が溶質原子であり、原子半径が異なるためです。δはこの無秩序な結晶構造による格子ひずみを評価するのに役立ちます。原子サイズ差(δ)が十分大きい場合、歪んだ格子は崩壊し、新しい相(例えば非晶質構造)が形成されます。格子ひずみ効果は固溶体強化をもたらします。
価電子濃度(VEC)を使って、ハイエントロピー合金の構造の安定性を予測できます。ハイエントロピー合金の物理的性質の安定性は、電子濃度(ヒューム・ロザリールールの電子濃度則に関連)と密接に関係しています。鋳造法でハイエントロピー合金を作製する場合、VECが8を超えるとFCC構造のみが形成されます。VECが6.87~8の範囲ではBCCとFCCの混合相、VECが6.87未満ではBCC構造になります。特定の結晶構造のハイエントロピー合金を作るには、相安定化元素を添加できます。実験的には、AlやCrを添加するとBCCハイエントロピー合金が、NiやCoを添加するとFCCハイエントロピー合金が形成されやすくなります。
エントロピー合金の定義
「高エントロピー合金」というからには「中/低エントロピー合金」もあるのでは?その通り。
以下の式で
ハイエントロピー合金の特徴
日本語名称が「カクテル効果」以外はっきりと決まっていないため、英語で調べたほうがヒットするかも。
High entropy effect
Severe lattice distortion effect
Sluggish diffusion effect
Cocktail effect
多元素重畳効果(カクテル効果)
多様な構成原子間の非線形相互作用に起因する特性発現。従来の合金触媒にはない特異で優れた触媒特性を示すことが期待できる。
ハイエントロピー合金の研究
溶製法
溶製法は液相から固相へ凝固させる従来の合金製造方法と同様です。構成元素を所定の組成比で溶解るつぼに装入し、アーク放電や高周波誘導加熱などで溶解した後、鋳型に鋳込んで凝固させます。
機械的合金化法
機械的合金化法は、構成元素の粉末を高エネルギーボールミルで長時間粉砕・混合することで、合金化を図る固相プロセスです。得られた合金粉末を固化成形(ホットプレス、放電プラズマ焼結など)して bulky な試料を作製します。
物理蒸着法
物理蒸着法は、構成元素をターゲットとして使い、スパッタリングや真空蒸着によりその組成比で薄膜を成膜する方法です。
積層造形法
近年、3Dプリンティング技術の一種である積層造形法によるハイエントロピー合金の製造も検討されています。ハイエントロピー合金は従来合金と異なる特性を示すため、製造プロセスの最適化が重要な課題となっています。
貴金属8元素混ぜ「夢の合金」京大が成功 触媒性能プラチナの10倍
ハイエントロピー合金に関連した研究
ハイエントロピー酸化物など
合金としは有用なハイエントロピー合金ですが、やはり時代はセラミックとCFRPに押されつつあります。
合金そのものとしてではなく、酸化物や窒化物、ホウ化物などのセラミックとしての研究も盛んです。
- アモルファス合金
アモルファス合金は、結晶構造を持たない非晶質の合金です。ハイエントロピー合金同様、多種類の元素を混合して作られます。アモルファス合金は優れた機械的性質を示すことから、注目されている材料です。 - ナノ準結晶
ナノ準結晶は、結晶とアモルファスの中間的な構造を持つ合金です。5種類以上の元素を含む多元系ナノ準結晶の研究が行われています。
ナノポーラス超多元触媒
準結晶
等モル量という点で言うと「準結晶」も近いのかな
ハイエントロピー合金に強い大学
ハイエントロピー合金について学びたいと思ったら日本の大学だと圧倒的に「京都大学」が強いです。
文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」で平成30年度から平成34年度までプロジェクトが立ち上がっていました。
ハイエントロピー合金 元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理
- 台湾清華大学 (台湾) – ハイエントロピー合金の概念を提唱したイェン・ウェイ・イェらの研究グループが所属する大学です。
- 北京科技大学 (中国) – 中国におけるハイエントロピー合金研究の中心的存在です。
- マックスプランク固体研究所 (ドイツ) – ドイツ連邦共和省の大型プロジェクトの拠点です。
- 東北大学 (日本) – 世界で初めてハイエントロピー合金のナノポーラス化に成功しました。
- 京都大学 (日本) – 文部科学省の大型研究プロジェクトの拠点の一つです。
ハイエントロピー合金のおすすめ書籍
論文で有名なElzevierが出版している、ハイエントロピー合金に関する論文をわかりやすくまとめた書籍。
大学で研究をしている際には主にこの本を利用し、わからないことを論文検索で探していました。
全文英語ですが、研究においては日本語でアクセスできる情報には限りがあるため、頑張って読もう!
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