【ハイエントロピー合金】元理系大学生が定義からわかりやすく説明する

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ハイエントロピー合金とは

ハイエントロピー合金/高エントロピー合金はHEAs(High Entropy Alloys)とも表記されます。

HEAsは5つ以上の主要元素がほぼ等しい割合で構成される、新しいコンセプトの金属材料になります。

従来合金は通常1~2つの主要成分と少量の他元素で構成されますが、HEAsは複数元素を大量に含みます。

この独特な組成により複雑な微細構造と特徴的な性質が生まれ、従来合金とは区別されています。

エントロピーとは

エントロピーはシステムのランダム性や無秩序さの尺度です。

HEAsでの「高エントロピー」は、複数元素がほぼ等モルで存在することで生じる配置エントロピーの増加を指します。

ランダムな理想固溶体の混合エントロピーは以下の式で計算できます:

$$ {\Delta }S_{mix}=-R\sum {i=1}^{N}c{i}\ln {c_{i}} $$

ここで、Rは理想気体定数、Nは成分の数、c_iはi成分の原子分率です。

より多くの元素が等しい/ほぼ等しい割合で存在すると、より高い混合エントロピー値が得られます。

3. ハイエントロピー合金の形成条件

HEAの形成は以下のような要因に影響されます:

  1. ヒューム・ロザリーの法則:この経験則は、原子サイズの差、結晶構造、原子価、電気陰性度に基づいて固溶体の形成を導きます。
  2. 価電子濃度(VEC):VEC則はHEAの固溶体相を予測するのに使用されています。研究によると:
  • BCC構造は主に5.7 ≤ VEC ≤ 7.2の場合に観察されます
  • FCC構造はVEC ≥ 8.4の場合にのみ見られます

ただし、すべてのHEAシステムに普遍的に適用できるわけではないことに注意が必要です。

中・低エントロピー合金

HEAは通常5つ以上の元素を含みますが、一部の研究者はより少ない成分数の合金も含めて定義を拡大しています:

  • 中エントロピー合金:HEAの他の要件を満たしているが、2〜4元素しか含まないか、混合エントロピーがRと1.5Rの間にある合金です。
  • 低エントロピー合金:1つか2つの主要元素を持つ従来の合金がこのカテゴリーに入り、HEAと比較して配置エントロピーが低くなっています。

5. 高エントロピー効果

高エントロピー効果はHEAの4つの主要効果の1つです。これは、多成分系における配置エントロピーの増加による固溶体相の安定化を指します。この効果により、多成分合金で予想されるような複雑な金属間化合物ではなく、単純な固溶体が形成される可能性があります。

6. 激しい格子歪み効果

HEAにおける激しい格子歪み効果は、異なる原子サイズを持つ複数の元素が格子サイトを占めることによって生じます。この歪みは以下のような結果をもたらす可能性があります:

  • 固溶体強化の増加
  • 電子とフォノンの散乱の増強
  • 物理的・機械的特性の変化

7. 拡散遅滞効果

HEAにおける拡散遅滞効果は、これらの合金で観察される拡散動力学が従来の合金と比較して遅いことを指します。この効果は以下のような要因に起因します:

  • 多様な局所的原子環境
  • 異なる原子種の協調運動の必要性
  • 格子内での深いエネルギートラップの潜在的形成

拡散遅滞は、高温での熱安定性と結晶粒成長への抵抗性の向上に寄与する可能性があります。

8. カクテル効果

HEAにおけるカクテル効果は、複数の元素間の相乗的な相互作用を表し、個々の構成元素の特性と比較して予想外の、しばしば優れた特性をもたらす可能性があります。この効果により以下が可能になります:

  • 組成調整による特性のテーラリング
  • 強度、延性、その他の望ましい特性の独自の組み合わせを発見する可能性

カクテル効果は、HEAの複雑さと特性最適化の可能性を強調し、材料科学研究開発の興味深い分野となっています。

ハイエントロピー合金の研究

溶製法

  • アーク溶解法
  • 高周波溶解法
  • ブリッジマン法

溶製法は液相から固相へ凝固させる従来の合金製造方法と同様です。構成元素を所定の組成比で溶解るつぼに装入し、アーク放電や高周波誘導加熱などで溶解した後、鋳型に鋳込んで凝固させます。

機械的合金化法

  • ボールミリング
  • 機械合金化(MA: Mechanical Alloying)

機械的合金化法は、構成元素の粉末を高エネルギーボールミルで長時間粉砕・混合することで、合金化を図る固相プロセスです。得られた合金粉末を固化成形(ホットプレス、放電プラズマ焼結など)して bulky な試料を作製します。

物理蒸着法

  • スパッタリング法
  • 真空蒸着法

物理蒸着法は、構成元素をターゲットとして使い、スパッタリングや真空蒸着によりその組成比で薄膜を成膜する方法です。

積層造形法

  • 電子ビーム積層造形法
  • 粉末レーザ積層造形法

近年、3Dプリンティング技術の一種である積層造形法によるハイエントロピー合金の製造も検討されています。ハイエントロピー合金は従来合金と異なる特性を示すため、製造プロセスの最適化が重要な課題となっています。

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ハイエントロピー合金に関連した研究

ハイエントロピー酸化物など

合金としは有用なハイエントロピー合金ですが、やはり時代はセラミックとCFRPに押されつつあります。

合金そのものとしてではなく、酸化物や窒化物、ホウ化物などのセラミックとしての研究も盛んです。

  1. アモルファス合金
    アモルファス合金は、結晶構造を持たない非晶質の合金です。ハイエントロピー合金同様、多種類の元素を混合して作られます。アモルファス合金は優れた機械的性質を示すことから、注目されている材料です。
  2. ナノ準結晶
    ナノ準結晶は、結晶とアモルファスの中間的な構造を持つ合金です。5種類以上の元素を含む多元系ナノ準結晶の研究が行われています。

ナノポーラス超多元触媒

準結晶

等モル量という点で言うと「準結晶」も近いのかな

ハイエントロピー合金に強い大学

ハイエントロピー合金について学びたいと思ったら日本の大学だと圧倒的に「京都大学」が強いです。

文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」で平成30年度から平成34年度までプロジェクトが立ち上がっていました。

ハイエントロピー合金 元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理

  • 台湾清華大学 (台湾) – ハイエントロピー合金の概念を提唱したイェン・ウェイ・イェらの研究グループが所属する大学です。
  • 北京科技大学 (中国) – 中国におけるハイエントロピー合金研究の中心的存在です。
  • マックスプランク固体研究所 (ドイツ) – ドイツ連邦共和省の大型プロジェクトの拠点です。
  • 東北大学 (日本) – 世界で初めてハイエントロピー合金のナノポーラス化に成功しました。
  • 京都大学 (日本) – 文部科学省の大型研究プロジェクトの拠点の一つです。

ハイエントロピー合金のおすすめ書籍

論文で有名なElzevierが出版している、ハイエントロピー合金に関する論文をわかりやすくまとめた書籍。

大学で研究をしている際には主にこの本を利用し、わからないことを論文検索で探していました。

全文英語ですが、研究においては日本語でアクセスできる情報には限りがあるため、頑張って読もう!

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