
高校化学で登場する水の三重点は、固体・液体・気体の3つの相が同時に存在できる点と習います。
しかし資料集の圧力-温度グラフには、三相とは別の状態が存在することをご存知でしょうか?
それが今回紹介する「超臨界水」。この厨二病感あふれる状態について、わかりやすくまとめます!
超臨界流体とは

物質はその温度と圧力によって固体・液体・気体となり、その間で起こる変化を相転移と呼びます。
取りうる相は温度-圧力線図から読み取れますが、液体と気体には特別な関係があります。
水の場合、臨界温度約374℃、臨界圧力約22.1 MPaを超えると液体と気体が区別できなくなります。
このような状態の物質を「超臨界状態」、特に水の場合を「超臨界水」とよんでいます。
今回は、超臨界流体の代表例である超臨界水を中心に、超臨界CO₂などの利用例も紹介します。
超臨界流体の性質
超臨界水とは液体と気体の中間というよりも、「液体と気体を区別できなくなった状態」に近いです。
高温・高圧になることで、水の密度や粘度、拡散係数、誘電率などが大きく変化します。
液体より低粘度で、比較的大きな拡散係数を持ちながら、密度は温度・圧力によって大きく変化します。
水の溶かす力が変化する
水は酸素原子側に電子が偏るため、分子全体として電荷の偏りを持つ極性分子です。
極性分子である水は、一般的に油のような無極性物質は常温ではほとんど溶かせません。
しかし温度上昇に伴い水の誘電率は低下、水素結合も常温とは大きく異なる状態になります。
その結果、高温の亜臨界水や超臨界水では、常温の水よりも有機物を溶かしやすくなります。
有機物を分解できる
高温であることで化学反応が起こりやすくなり、さらに超臨界水では物質の拡散も速くなります。
これらの性質と、溶解性の変化から水と有機物、酸素などが同じ反応場で接触しやすくなります。
すると有機物を高温・高圧の超臨界水中で酸化させ、最終的にCO₂やH₂Oなどへ変換できます。
これを超臨界水酸化(SCWO:SuperCritical Water Oxidation)と呼びます。
反応の考え方は空気中で有機物を燃やす燃焼反応とよく似ていますが、いくつかメリットがあります。
- 有機物と酸素を水中でよく混合できるため、水に溶けにくい有機物も溶解しやすい
- 適切な条件では、NOxなどの大気汚染物質の生成を抑えられる
- 事前に乾燥・濃縮が必要ないため、水分の多い廃棄物をそのまま処理しやすい
- 不完全燃焼による煤などが発生しにくい
気体のように拡散しやすい
超臨界流体は、一般的な液体より粘度が低く、物質の拡散も速いという特徴があります。
そのため多孔質材料の内部など物質移動が遅くなりやすい場所でも、比較的速く移動できます。
こうした性質は、抽出や洗浄、反応などに利用されています。
温度・圧力で溶解力を調整できる
温度・圧力を変えることで溶解力を調整でき、目的物に合わせて溶媒としての性質を変えられます。
特に圧力変化で密度が大きく変化する領域では、溶解物質を取り出す条件まで調整しやすいです。
有機溶媒を用いた抽出だと抽出物によって複数の溶媒が必要ですが、超臨界流体で置き換えることも。
超臨界流体はどこで役立つ?
ここからは超臨界水に限らず、超臨界流体全体の利用例を見ていきます。
メインで使われるのは超臨界二酸化炭素が多いです。これは
デカフェ技術
最近お店でも見かけるようになったデカフェコーヒーは、コーヒー豆からカフェインを取り除きます。
方法としては水を使う方法、酢酸エチルなどの溶媒を使う方法、超臨界CO₂を使う方法などがあります。
コーヒー生豆を水分で膨潤させてから高圧のCO₂を通すことで、カフェインを抽出します。
圧力や温度を変えてCO₂の溶解特性を調整できることが、この方法のポイントです。
ビールの成分抽出
ビールの苦味や香りに関係するホップ成分の抽出にも、加圧したCO₂が使われています。
ホップからα酸、β酸、精油などを抽出したCO₂エキスは、実際の醸造にも利用されています。
また超臨界CO₂で植物から精油や香り成分を取り出す方法も研究・利用されています。
食品、香料、化粧品など、比較的熱に弱い天然成分の抽出に利用できるのが特徴です。
下水汚泥処理
下水汚泥などは、水分が非常に多い+有機物を多く含むという特徴があります。
通常の焼却だと乾燥→焼却という工程で、大量の水を含む汚泥は処理にエネルギーがかかります。
一方、超臨界水を利用した処理では、加圧・加熱→酸化→CO₂・水などに分解という処理が可能です。
蒸気タービン発電
火力発電所などでは、水を加熱して高温・高圧の蒸気をつくり、それでタービンを回いて発電します。
その中には、水を臨界点より高い圧力・温度まで加熱する超臨界圧発電があります。
ボイラーの中で液体が沸騰して蒸気になる相変化を経ずに、高圧の単一流体として加熱されます。
その後、タービンで膨張していく過程で、一般に「蒸気」と呼ばれる状態として扱われます。
さらに超臨界CO₂は、液体に近い高い密度を持ちながら、気体に近い流動特性を示します。
蒸気タービンに比べてターボ機械を小型化でき、単位体積あたりの出力を上げられる可能性があります。
実際、アメリカのテキサス州ではSTEP Demoという10 MW級の超臨界CO₂発電実証設備が建設されました。
バイオマス水素
超臨界水酸化と異なり、酸素を過剰に入れない条件では有機物から水素を取り出す反応も起こせます。
これを超臨界水ガス化(SCWG:SuperCritical Water Gasification)と呼びます。
酸素を加えず、あるいは不足させる → 有機物をガス化し、H₂やCO₂を含むガスを得るという反応です。
水分の多いバイオマスは乾燥にエネルギーを要するため、乾燥せずに処理できることが利点となります。
精密機器・半導体の洗浄
超臨界CO₂は表面張力を持たないため、液体の乾燥で問題になりやすい表面張力の影響を受けにくいです。
そのため、微細な構造の洗浄や乾燥に利用する研究が行われています。
特に半導体では、微細なパターンが液体の表面張力によって倒れてしまう「パターン倒壊」が問題になることがあります。
そこで超臨界CO₂を使って乾燥させる方法が研究されています。
実際に半導体ウエハや精密部品を対象とした超臨界CO₂洗浄・乾燥技術が研究・開発されています。
それにより、将来的には廃液や乾燥工程を減らせる可能性があります。
研究の場での超臨界流体
超臨界流体クロマトグラフィー
超臨界流体クロマトグラフィーは、加圧したCO₂などを移動相として利用するクロマトグラフィーです。
超臨界流体は一般的な液体より粘性が低く、物質の拡散係数も大きくなります。
液体クロマトよりも高い線速度でカラムを流しても、分離効率を維持しやすいという特徴があります。
また、CO₂の密度や溶解力は圧力や温度によって変化するため、これらを分離条件として利用できます。
さらにモディファイアーと呼ばれる補助溶媒を加えると、移動相全体の極性や溶解特性を調整できます。
ナノ粒子作成
超臨界流体を利用して、物質を溶かした状態から急激に圧力を下げて析出させたりする方法があります。
代表的なものが、超臨界溶液急速膨張法(RESS)や超臨界貧溶媒法(SAS)です。
条件をうまく調整することで、粒径や形態を制御した微粒子・ナノ粒子の調製に利用されています
超臨界流体の主な大学、研究室
東北大学 阿尻研究室
超臨界水を反応溶媒としたバイオマス変換、ケミカルリサイクル、有機合成、ナノ粒子合成、資源改質、触媒などの研究を行っています。特に金属酸化物粒子の超臨界水熱合成や、有機分子と無機材料を組み合わせた「超ハイブリッドナノ粒子」などが特徴的です。
https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/ajiri_labo
東北大学 笘居研究室
超臨界流体を利用したナノ材料、触媒、バイオマス変換、ケミカルリサイクル、資源改質、電気化学プロセスなどを研究しています。2023年に発足した比較的新しい研究室です。
https://tomai.fris.tohoku.ac.jp
東北大学 小宮研究室
超臨界流体を利用した汚染土壌の改質・浄化や、高効率な物質移動に関する研究を行っています。
https://www.ifs.tohoku.ac.jp/komiya
東京大学 秋月研究室
超臨界流体を利用した環境調和型プロセスを研究しています。有機合成、未利用資源変換、金属酸化物ナノ粒子、超臨界水酸化、無害化処理、無機物資源回収など、今回の記事で紹介した内容とかなり近い研究が並んでいます。
https://www.oshimalab.k.u-tokyo.ac.jp/about/research/akizuki-lab
東京大学 寺本・岡本研究室
ロケットエンジンやジェットエンジンの内部熱流体を研究しており、ロケット燃料の超臨界噴流や、液体水素・液体酸素の混合などを扱っています。超臨界流体が「化学工学」だけの話ではないことが分かる研究分野です。
https://www.thermo.t.u-tokyo.ac.jp/
臨界点はもう1つある?
今回取り上げたのは液体・気体の臨界点ですが、水には液体・液体臨界点の存在が予想されています。
これまでもシミュレーションや過冷却水の物性測定などから、その存在が示唆されてきました。
- 過冷却水で熱容量や密度揺らぎの異常が見られる
- 高密度・低密度の非晶質氷が存在する
- X線散乱から異なる水の構造を追跡できる
- コンピューターシミュレーションでも液液臨界点が予測されてきた
2026年には熱容量の臨界的な増大が210 ± 8 K付近で観測され、密度揺らぎの増大も確認されました。
普通の水は「2種類の液体が混ざった超臨界液体」であると実験的に証明! 液液臨界点を発見
まとめ
その呼び名から興味を引く超臨界流体ですが、調べてみると意外と身近なところにも関係しています。
コーヒーのデカフェ、廃棄物処理、半導体洗浄、さらにはロケットまで、使われ方はかなり幅広いです。
しかも水は身近な存在でありながら、普通の液体とは違った性質をたくさん持っています。
今後も研究が進み、水の知られざる特徴が少しずつ明らかになっていくと面白いなと思いました!
興味を持った方は、超臨界流体学会や今回紹介した大学・研究室のホームページを見てみてください。
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