【ナゾロジー】信憑性はあるのか、科学メディアに理系が望むこと

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Xの学術系界隈で話題の「ナゾロジー」は、kusuguru株式会社が運営する科学情報サイト。

一般人でも興味の持てそうな話題を提供する一方、信ぴょう性などの問題が指摘されます。

今回は元理系大学院生の個人的な興味として、ナゾロジーの信憑性などを考えていきます。

ナゾロジーについて サイト案内

ナゾロジーに関する事件

コミュニティノートの多さ

ナゾロジーの特徴は、Xで誤ったポストなどに付けられる「コミュニティノート」の多さ。

政治要因を含まないニュースメディアで、NHKや産経ニュースに並ぶのは多いと感じます。

一方で科学の世界では「査読」という相互チェックの文化があることも影響がありそう。

ソース:https://community-notes-leaderboard.com/users/Nazologyinfo

論文著者による修正依頼

ベニガオザルの記事について論文の者である豊田 有氏が苦言を呈するポストが話題に。

※なお、本研究は、ヒトで見られる「屍姦」を肯定するものではなく、またその生物学的進化起源に
ついての示唆を与えるものでもないことを申し添えます。本観察事例の誤った解釈は社会的秩序に反
する議論を喚起する危険性をはらんでいるため、報道機関・メディア各位におかれましては、本事例
の取り扱いには細心の注意を払っていただきたく存じます。

論文中にはこのような文章が赤文字で強調されていましたが、ナゾロジーのタイトルは

・「野生の霊長類で初!サルが屍姦(ネクロフィリア)する様子が観察される」でした。

記事の最後にこの注意書きに関する説明もありましたが、この記事は議論を呼びました。

AIでの執筆可能性の指摘

メディアにも寄稿する科学ライターの彩恵りりさんにより、記事の誤りが指摘されました。

誤りの内容が通常考えられない間違いだったこと、記事本文の最後に「chatgpt.com」が。

りりさんの指摘で文章の修正は行われましたが、公式からこの件に関するアナウンスはなし。

彼女は度々ナゾロジーに対し指摘を行っており、自分も彼女をきっかけに本件を知りました。

他メディアと比べよう

ナゾロジーの信憑性についてよく話題にのぼるのが「煽り記事的なタイトルの付け方」です。

ネット広告は表示回数で収入が決まるため、まずはウェブをクリックしてもらうことが重要。

ナゾロジーに多いのは「断定表現(決定!発見!)」「誇張表現(~であった、~とわかった)」

今回はコミュニティノートが付いた適当な記事について、他メディアのタイトルと並べました。

124光年先の惑星に強い「生命のサイン」を検出!(ナゾロジー)

過去最高に有望な「地球外生命の兆候」が見つかる、124光年離れた「ハイセアン」惑星で(GIGAZINE)

地球から124光年離れた惑星に、生命が存在する証拠? 懐疑的な見解も(ギズモードジャパン)

124光年先の惑星で生命活動に関連した物質を検出?(sorae)

ちなみにナゾロジーのポストについたコミュニティノートがこちら。

地球上では生物由来で生成される物質「ジメチルスルフィド」が検出されたという内容は学術的に興味深いものではありますが、これが直ちに「強い生命のサイン」を指すものにはならないことに注意が必要です。

2024年以降、このジメチルスルフィドが彗星や星間空間のガス、擬似的に生成したモヤに紫外線を照射した室内実験という非生物由来の環境でも生成されたという研究が複数報告されており、NASAも今回の単一の発見だけでは生命の存在を示すものとはいえないという否定的な見解を示しています。

https://www.astronomy.com/science/k2-18-b-could-have-dimethyl-sulfide-in-its-air-but-is-it-a-sign-of-life/ https://meetingorganizer.copernicus.org/EGU24/EGU24-16695.html https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ad74da https://japan.cnet.com/article/35231964/

ナゾロジーの良い所

テーマはキャッチーで面白い

さらに記事になるテーマは普段生活していたら知れない、かつ人に話せるような面白い内容。

科学に詳しくない人が興味を持つきっかけ、科学ニュースを広く浅く知りたい人には良いかも。

ただ「人に話せるような面白い内容」というのが、今回の信憑性に大きく影響してきます。

科学に興味がない人でも読みやすい

ナゾロジーが取り上げるテーマは自然科学にとどまらず、歴史や宇宙など多岐にわたります。

子供の頃に感じていた小さな疑問や、意外な動物の行動や身の回りの不思議な現象の記事も。

論文にアクセスする機会がない人でも、最新の研究をわかりやすく学べるのも良い所です。

科学ニュースの情報が早い

ナゾロジーに関する意見をXで探すと「情報の早さ」を上げているアカウントがありました。

海外で発表された英語ニュースを、どこよりも早くわかりやすく提供するのは強みですね。

ただその早さと正確さの両立という点がナゾロジーの課題にもつながっている気がします。

科学メディアに望むこと

誇張や断定表現を減らす

メディアの目的は「露出を増やすこと」にあり、そのためには多少表現を誇張することも。

広告表示回数や購読数で収入が決まる媒体である以上、これはしょうがないかもしれません。

一次情報である以上情報の偏りが出ますが、表現を変えたり誤解を招くのはメディアとして…

日経新聞の後藤氏のように「無料で情報公開→月額性のnoteに移行」で収入を確保する?

専門家をそろえること

科学全般のニュースについて、英語論文を読み解きながら素人に正確な情報を伝えるのは大変。

科学ニュースが伸び悩むのもその専門性と手間だと思います。

内容を易しくしたり必要ない情報を削るのは必須、ただ誤解を生んだり煽情的な表現は良くない。

その分野に理解の深い専門家、それこそ学術系Vtuberなどを執筆者にするのはどうでしょうか?

ファクトチェックを行うこと

博士レベルの内容をわかりやすく直すのは大変なので、情報収集/言い換えはAIを使うのもアリ。

ファクトチェックは有料会員やX上で限定公開して「査読」を行ってもらうのはいかがでしょう?

それがコミュニティノートという意見もありますが、ノートが付く前に情報が拡散するリスク大。

速さとの両立でいうと「査読スピード+指摘箇所」などでインセンティブを付けるなど…?

ネットリテラシーが問われる

うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい

ひろゆき

科学に理解のある人の中でナゾロジーの評価は低いですが、このような意見も考えられます。

「一般人が興味を持つきっかけになる」「本文の後半で煽り文の訂正をしているからいい」など。

個人がメディアを運営できる時代、メディアに対するモラルを問うのも難しいのかもしれません。

ただ「悪貨が良貨を駆逐する」という諺もあるように、科学界隈への信用が失われる可能性も。

自浄作用が働くこと、より正しくわかりやすい科学メディアを立ち上げることくらいしかない。

自分としては以下のリスクを考えてナゾロジーはミュートするスタンスを取っています。

  • 煽りっぽいタイトルを見て精神が疲れてしまうリスク
  • 誤りのある可能性が高い内容を他人に話してしまうリスク
  • 内容の議論でギスギスしたポストを見るリスク

おまけ:科学のキ

https://note.com/juntoku_y/n/n6fbb5ad768c2

相関関係と因果関係

論文になって世間に公表されていればよっぽど問題ないと思われますが、2つの事柄同士の関係。

相関関係と因果関係の誤解や、疑似相関との見分けが少しわかると陰謀論などへの反論材料に。

昔のことわざでいう「風が吹くと桶屋が儲かる」も疑似相関なのかな?

二つの間に(砂が舞う→失明者増→三味線引き増→猫皮が狩られる→ネズミが増える→桶かじる)

情報の信頼度

「それって何かデータあるんですか?」や「ハーバード大学の研究によると…」が流行りました。

ただデータがあるからと言って、そこから導ける結論が信じられるかというのは難しい問題です。

研究によっては上記の相関なのかを見極めるのが難しく、断定を避ける論文もあったりします。

英語での信憑性の表現など→https://www.jaob.jp/file/publication/workshop_56.pdf

査読、反証実験

サイエンスの分野では「査読」という、他研究者による妥当性の検討が行われることが一般的です。

プレプリント(査読前にウェブ公開)→査読(関係者がチェック)→論文掲載(公に認められた)

また掲載される論文誌も信頼度をはかる指標となり、インパクトファクター(IF)と呼ばれます。

ハゲタカジャーナルなど別の問題も出てきますが、今回は触れません。

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